
Profile
中村 雄一郎(なかむら ゆういちろう) 先生
札幌日本大学中学校・高等学校
英語科主任,医療系探究講座MLPチーフ
教務部副部長、中学部バドミントン部副顧問
高校3学年主任
札幌育ち。札幌南高校、一橋大学社会学部社会問題・政策課程卒業
大学生当初は少年問題に取り組もうと家庭裁判所調査官を目指していたが、アルバイトで始めた塾講師の仕事を通じて子どもと触れ合う喜びを知り、大学卒業後は地元の札幌に戻って自身も通った学習塾に勤める。勉強だけでなく、幅広く子どもの成長を支える仕事に魅力を感じ、札幌日本大学中学校・高等学校へ転職し今年16年目。
趣味はピアノの弾き語りとマラソン大会への参加。妻、一男一女の4人家族。座右の銘は「この世に無駄なものなどない」

カブトムシいりませんか?
Students

3年11組 Y・MさんとY・Mさん
(取材日:2025年6月16日)
INDEX
- 英単語小テストとミニ講義による解説
- 英語歌で耳と頭を英語モードに
- 段落要約とグループ共有と個人演習
- 問題解説
これまで中学生の基礎的な学術概念(基礎的な学術概念を一般的な言葉に置き換えると「基礎学力」という表現が近いかもしれません。)を獲得するための探究的、協同的な授業を中心に取材を行ってきました。今回は受験期の高校3年生英語の2時間続きの入試対策授業を取材させていただきました。
十分な基礎学力が習得されている場合、それらを活用することで、大学入試で問われる問題にも対応することができます。札幌日大中学校の学びが大学入試にどのように接続されていくのか、受験期の授業を取材することで明らかにしていきたいと思います。
また、今回は中村先生にお願いし、授業の後半50分の解説部分について動画を公開させていただくことになりました。近年、様々な魅力的な教育動画コンテンツが配信されており、講義はそちらで視聴してもいいのではという意見もあります。しかし、ライブで行われている受験指導の授業は、それらと比べて本当に質が劣るのでしょうか、その点も注目してみたいと思います。
■英単語小テストとミニ講義による解説
授業は小テストから始まります。この小テストは学校で採用している『英単語帳データベース4500』に付属しているものです。テストが配布されると、モニターに4分が表示されます。生徒はこの時間の中で解答します。
4分が経過すると答案を隣の生徒と交換します。交換後、中村先生は解説を行います。今回は約8分の解説の中で、発音のポイントとなる点や関連する語句や意味などの情報を教えてくれます。
生徒は丸付けが終わったら、元の生徒に答案を戻し、今回の点数をロイロノートにあるアンケートに記入します。すると、クラス全員の点数の分布が1点刻みで表示されます。これにより、毎回の小テストの到達度がクラス内でどの程度か客観的に把握できます。
生徒たちは、毎回の流れで慣れているのか、点数に一喜一憂することはなく、「あーここが間違った」などとつぶやきながら、その場で覚え直しをしていました。

4分間で実施される英単語帳付属の問題

ICTを利用し、テスト後すぐに全体の概況を把握できる
■英語歌で耳と頭を英語モードに
小テストが終わると音楽が流れ始め、生徒が全員立ち上がりました。英語の歌を歌うようです。今月歌っているのは「High Hopes」という歌で、アメリカのポップロックバンドの曲です。毎月曲は変わりますが、歌うことで英語のフレーズを耳と目と口で覚えていくことにつながるそうです。中学生で行っている世界標準読活のシャドーイングと近い考え方と言えます。歌詞は、お金や成功がなくても、常に大きな夢や希望を持ち続け、自分の可能性を信じて挑戦し続けることの大切さを母親が息子に伝える内容です。困難や周囲の声に負けず、自分だけの道を歩み、いつか特別な存在になってほしいというメッセージが込められています。歌詞はここに掲載できませんので、検索してみていただければと思います。
授業の冒頭がテストで始まり、少し硬くなっている様子もありましたが、歌っているうちにリラックスする様子が感じられました。歌いながら英語の頭、耳、目、口に切り替えていく時間として行われています。歌っている時間は4分程度でした。


パニック!アット・ザ・ディスコの曲。曲は毎月変わります。
■段落要約とグループ共有と個人演習
歌唱後はリーディングを行います。現在使用しているテキストは、桐原書店の『英語長文問題演習必修編』です。この問題集は大学入試2次試験で使用された文章が掲載され、概ね見開き左側ページが英文で、右側が、設問という構成になっています。
この学習時間は、各自が英語長文を読みながら、段落ごとの要約を行います。その後、グループで共有し、個人で設問に取り組みます。
以下の流れで進みます。
1. 段落番号をつける
2. 本文を読む
3. 段落ごとに要約し、ワークシートに記入する。
(ここまで個人作業で、今回の授業は11分間が与えられました。)
4. 4人グループになり、各段落の要約を共有する。
5. グループを解消し、個人で演習に取り組む。
ここまでで、最初の50分が終了します。10分の休憩を挟んで、次の授業では問題の解説が行われます。
この時間帯で特に印象的だったのが、要約の後のグループ共有があったことです。単に共有するだけでなく、「こう書かないと伝わらないのではないか」「筆者が言いたいことはこっちではないか」と表現方法や内容について深い議論がなされ、4名の意見を集めると、ほとんどのグループでかなり高い精度の要約が行われていたことです。これにより、その後の各自の問題演習で、本文の内容をかなり深く理解したうえで解答することができ、本文の内容が分からないで間違ったのか、解釈や理解において間違ったのか、どこに問題があったのかが明確になっていました。

大学入試の記述問題を主眼においた問題集。『必修編』は国公立大学入試レベルでこのテキスト終了後、難関大学入試レベル問題集に進む。

段落の要約をするためのワークシートが配布される。

段落の要約が終わったら、グループでそれらを共有します。
■演習解説
今回の課題文は遺伝子組み換え技術についての内容です。1時間目の授業で、個人要約とグループ共有で内容を理解したうえで、問題に取り組んだものを英語の専門的観点から解説を行います。今回この50分の動画をノーカットで掲載しています。
授業動画の要約を以下にテキストで記載します。
導入で「as well as」の文構造に注目し、「害虫や病気から作物を守る」という周知の利点に加えて、「植物に新しい製品を作らせる」といった筆者独自の主張があることを説明しています。「make A B」構文を使い、「Make plants produce entirely new products(植物に全く新しい製品を作らせる)」という文の文法的分析を通して、語順と品詞の使い方を詳しく確認しました。次に、遺伝子操作された植物が医療分野で利用される例として、B型肝炎に対する抗原を生成できるバナナが紹介されます。このバナナは遺伝子組み換えによってワクチン成分を生成できるよう設計され、ニューヨークのコーネル大学で開発されたと書かれています。抗原を運ぶために「キャリアバクテリウム」と呼ばれる媒介細菌が用いられ、ウイルス由来の遺伝子をバナナの細胞に移植する役割を果たします。これは「from A into B」の構文で説明され、正確な前置詞の理解が必要となることが説明されました。また、「バクチネイティング・ポピュレーションズ」という表現を通じて、遺伝子組み換え作物が理論上は安価なワクチン供給手段として貢献できるという社会的意義も示されます。
中村先生は随所で単語帳や英検準1級の語彙に言及し、受験英語と実用英語の接点を強調しています。英語の構文だけでなく、語彙力と文脈読解力を高めるための視点を丁寧に指導していました。
【今回の課題文の要点】
・遺伝子技術者は遺伝子修飾を使用して、植物や動物に望ましい特性を導入することができる。
・この手法は、ある種の特性を持つ新しい材料を開発するために使用される。
・遺伝学者は、プラスチック粒子を含む繊維を生成する綿植物を作成した。
・遺伝子工学を使用して「ウルトラウォーム」と呼ばれる一種の材料が開発されている。

■生徒インタビュー➀

YU・Mさん YO・Mさん
Q 二人に同じ質問をしますので、それぞれ回答をお願いします。
ところで二人はイニシャルが同じなんですね。
A はい。双子なので(笑)
Q ではYUさんとYOさんというイニシャルにしますね。
YU はい。それで大丈夫です。
Q 進路希望を差し支えなければ教えてもらえますか?
YU 僕は神戸大学への進学を希望しています。
YO 僕は東北大学です。
Q どちらも全国的に人気のある競争率の高い大学ですね。
YU はい。英語は共通テスト二次試験共に重要なので頑張って取り組んでいます。
Q 今日の授業の流れはいつも通りですか?
YO そうですね。小テストをして、歌を歌って、段落要約を個人でやってから、グループで共有した後に長文を読んで問題を解くというのが1時間目で、次の授業で解説をするのが標準的です。
Q 今日の授業の率直な感想を教えてください。
YO 今日も受験に役立つ授業だったと思います。東北大学は英語の文章が長いので、段落ごとにしっかりと筆者の主張を論理的に理解する必要があります。中村先生の授業では、in fact、befoer、 ever、one exampleが来たら次に○○が来る、そして◇◇を意味する・・というような一般化されたロジックをたくさん説明してくれているので読み進める際、論理的に判断しやすくなります。
YU 上から目線で何ですが、いいなという感想です。英語長文の授業は、解く+解説だけのシンプルなものが多い中、中村先生の解説はロジカルなところがとてもいいです。文章の接続、これが来たらこれが来るという点をたくさん教えてくれるので、文章間のつながりを判断する力がつきます。
Q 歌を歌っていましたが、あれはどのようなものですか?
YO 「High Hopes」という歌で、アメリカのポップロックバンドの曲です。
YU 歌が嫌いな人もいるので賛否ありますが、僕は結構好きですね。
YO 英語は4技能問われるので、昔からやっています。フレーズを型で覚えられるのでいいと思います。
YU 先輩も授業でやっていたので、気分転換的な時間でルーティーン的にやっていますね。
Q ところで、お二人は英語は好きですか?
YO 好きですね。中3の時がターニングポイントで、中村先生からの課題で100個以上の定型英文を覚えさせられました。すごい大変だったんですけれど、それを真面目にやった後から英語が急にわかるようになりました。直近では共通テスト模試の過去問で98点を取ることができましたが、英語が好きになって勉強を続けられていることが結果に表れていると思います。
YU 中学の時は結構サボってしまって、やらなきゃなと思いながらもできなくて、それで嫌になって、点数が下がってという悪循環でした。でも中村先生の授業を受けていく中で、授業で教えてもらうところと自分で補完するところ、代表的なものが英単語や熟語などですが、それがよく分かったので、いまはだいぶ取り戻してきています。共通テスト模試の過去問でも7割は超えてくるようになりました。
Q 大学受験のために学校では足りないものがありますか?
YO 授業をしっかり受けることで大丈夫です。大学受験で効率よく点数を取るための戦略も教えてもらえます。
YU 英語はやらなければいけないことがたくさんありますが、何を自分でやらないといけないかも教えてくれるので、それをちゃんと自分でやっていけば、模試の点数も上がってくるので、大学入試にも対応できます。youtubeで解説を見ることもありますが、これも足りないところが分かっているからそこを補うためにやっています。何が足りないかを気づかせてもらえるのが、中村先生の授業です。
Q 最後に中村先生へメッセージを。
YU 中村先生の英語はバイブルです。これからも頼りにしています!
YO 6年間お世話になっています。僕は英語が得意になりましたが、間違いなくその原点が中村先生です。いい報告ができるようにこれからも頑張ります。
■中村先生の想い
前職の学習塾では、英語だけでなく国語、数学、社会の授業を、学年も小学生から高校生まで幅広く担当していましたが、自分としてはそれが自然だと思っていました。というのは「勉強に枠などない」と思っていたからです。今でも、有効だと思えば、数学、理科、古文・漢文、社会と繋げて説明します。知識とは、縦に深く連なるものだけでなく、横にも次々と繋がるものだと思って授業をしています。
また、「生徒同士の相談の時間」を大事にしています。教師の話を口を開けて待っているひな鳥のような生徒では力はつきません。獲得しようと仲間と知恵を出し合うことこそ力を伸ばしていくのです。真剣に議論し合う生徒に育ってくれることが目標のひとつです。また、同学年による横の相談だけでなく、異学年間の縦の相談の機会も効果的であり、これはすでにMLPなどの探究学習の場で実践しています。

■まとめ
中村先生は今回授業をした学年を担当して6年目になります。中学校1年生から高校3年生までの5年強に及ぶ付き合いがあり、生徒それぞれの性格や能力を熟知しています。授業進度や難度の設定は、大学入試までの決められた期間の中で、緻密に計画されていながらも、授業の中では生徒たちの状況に合わせてその場で最適化されています。生徒たちの学力を伸ばしたいという熱い思いと責任感が強く感じられたとともに、生徒たちもこれまで習ってきた先生への信頼と安心感の中で生き生きと学ぶ姿を見せてくれました。この授業は英語長文演習において中心となる「読む」「書く」だけでなく「聞く」「話す」を含めた4技能を効果的に取り入れ、多彩なコンテンツにより生徒の集中力を維持しながら受験で点数がとれる力を養っていくことができていると感じました。
受験期であってもグループワークを用いていた中村先生の授業。
「大学受験は団体戦」という言葉があるように、厳しい受験期間の中を切磋琢磨する仲間がいる、困ったときに手を差し伸べてくれる仲間がいる・・・。最後はそれぞれが自分の志望する大学の試験を受けますが、そこに到達するまでの厳しい道中で、共に頑張る仲間がどれほど重要かを感じさせられました。中高一貫の魅力の一つが、このような仲間意識を育んでいけることかもしれません。そう考えると、これまで取材した中学での探究的、協同的な学びが大学入試につながっていくというのも理解できます。
(取材・記事 昭和女子大学現代教育研究所 研究員 本岡泰斗)