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第8回 受験期なのに生徒が黒板に立つのはなぜ?(高3数学演習)

Profile

松原 俊介(まつばら しゅんすけ) 先生

札幌日本大学中学校・高等学校
数学科 中学校3学年主任(担任) 

Students

(取材日:2025年7月14日)



INDEX


■授業の概要

この授業は高校3年生対象の数学演習という講座名で開講されており、国語演習との選択になります。主に理系の大学受験を考える生徒で構成されています。受講人数は約25人で授業の内容は数ⅠAⅡBCの範囲で大学入試問題の演習を行っています。授業は2時間続きとなり、概ね1時間目は今回取材した生徒による演習問題の解説、2時間目は先生が用意した入試問題と先生による解説を行います。

使用するテキストは大学への数学 1対1対応の演習 三訂版(東京出版)。 例題で学習し、対応する演習題を独力で解くことで、そこで扱うテーマについての理解が深まり、 大学入試レベルの実戦力が自然と身につく実績のある問題集です。

大学入試における基本から標準までが掲載されている。

テキストのサンプル。
上部に例題を掲載し、その下に例題よりやや難しめの演習問題が掲載される。


■生徒による演習問題の解説

今回の授業では、3人の生徒が問題解説を行いました。円や直線やそれらの交点や接線などから描かれる図形の面積を求めるなどの範囲を学んでいます。松原先生は授業の開始の合図や生徒解説後の補足を短い時間で行います。

今回の50分間で生徒はどのような発言をしたのか、主な発言をまとめました。( )は発言した人です。

◆はじめに(松原先生)
それでは始めますので、担当のみなさんよろしくお願いします。
取材の先生が後ろで見ているので、もしかしたら後で感想を聞かれるかもしれません(笑)

◆第1問の解説(生徒)
基本的な問題ですが、ちょっと珍しいタイプなので、頑張って解説していきます。
この問題は、まずP、Q、Rという3点を考えます。
RはPQを接点とする接線の交点で、とりあえずこのあたりにRがあると仮定します。
P、Qを通る接線をそれぞれ求めていけば、Rの座標が出せます。
その後、X座標を消去して出していくと、Rのx座標が「1/2p+9」と求まります。
また、この時点でmy平面でx座標が同じになるので、「平行」ということが分かります。
どちらかに代入して答えを出していけばOKです。

■図形の面積の求め方(生徒)
次に、三角形PMRについて考えます。
MとRの座標の差で、だいたいRの位置が分かります。
次に、PからMRへの距離を出します。
Pの座標を入れて計算し、1/2をかければ三角形の面積が出ます。
さらに、「この2つの直線が直交する」条件を考え、傾きが-1になるように設定します。
この条件を使って式を整理すると、三角形PMRの面積の最小値は「1/2」となります。

■注意事項とポイントについてのコメント(生徒)
記述式で抜けやすいのは、「PとQが同じだと困る」場合。必ずこの条件も書いてください。
相加相乗平均も使う場面があります。
この問題は図を書いて考えると分かりやすいです。

■第2問の解説(生徒)
この問題は「円の半径」に関する問題です。料理と一緒で数学は下処理が大事です。円をC1、C2と名付けましょう。
各問いで「円の中心」や「半径の和」「中心間の距離」に注目して式を立てると簡単に求まります。
円C1とC2の中心間の距離や半径の関係から、それぞれの半径を求めていきます。
あとは問題文にある条件を整理して式に代入し、答えを導きます。
中心間の距離や直線と円の関係は、図形を丁寧に書くと分かりやすいです。
距離や高さは、与えられた条件から三平方の定理を使って求めましょう。
分からない部分は「別解」や「他の視点」でも考えてみるといいと思います。

■第3問の解説(生徒)
この問題も同様に、問題を「関数を置く」などしてシンプルにしましょう。
2つの円の共有点を通る直線や円の方程式などが問われます。
解答のときは、安易に「イコール0に代入する」のではなく、式の成り立ちや意味をよく考えてください。

■まとめのコメント(生徒)
途中で分からなくなった場合は、必ず図形を書いてみることをお勧めします。
また、式だけでなく図や条件から「何が分かっているか」を整理しましょう。
分からない部分や計算ミスも含めて、積極的にみんなで共有したほうが良いです。

■最後に(松原先生)
時間が少なくなりましたので残りの時間は各自予習・復習してください。
次の授業で類題や似た問題を扱う予定です。
分からないところは遠慮なく質問してください。

今回生徒が解説した演習問題 抜粋






■対談 ~数学の入試対策について~

【大学入試の数学で重要視している点を教えてください】
まずは基礎です。基礎というのは、大学入試問題を解くにあたり、絶対に理解しておかなければいけない公式や、なぜその公式が成立しているかといった点、そして入試ならではの定番の解法などです。そして同時に絶対的な基礎計算力。基礎計算力とは、正確にスピーディーに処理していく計算力です。この2つができている状況になることが大前提で、これらがが不完全だと、難関大学の合格点に達することができません。基礎なしに、その上を構築することができないのは昔も今も変わりません。

【松原先生の授業で大事にしていることは何でしょうか】
この授業は基礎計算力がある一定以上あるという前提で進めています。そのうえで大事にしていることは定番を確実に理解し、予習で説く力をつけることです。あとは定番の知識の組み合わせを行うことができる力をつけることです。 また、教科の枠を超えた話にはなりますが、人前で説明することを経験させることも今後の活躍のために大事にしています。

【この授業スタイルはいつから始まり、いつぐらいまで続きますか】
この授業スタイルは数学の履修範囲が終わった高2の後半から続いています。だいたい今年の10月くらいまで続きます。10月以降は共通テスト対策でマーク形式の演習に替わります。マークの問題は記述問題の力があれば十分理解できますが、マーク特有の考え方や答えの導き方、時間の使い方があります。そのため、ある程度の時期になれば練習も必要になります。ちなみにこの解説型授業はグループでやる場合もあります。クラス全体で聞くべき問題は全体に向けて解説をし、ディスカッションで深めたい場合は4人グループで行うこともあります。

【この授業スタイルでテキストはどのくらい消化できるのですか】
現在の問題集は高3の4月から使っています。1回の授業で4問程度しか進みませんので、10月まででテキストの3割ぐらいしか進みません。そのため、授業で扱う問題は頻出の問題や受験用の必須内容、難関大を受験するにあたって知らないといけない問題を厳選して生徒に割り当てています。

【高3の数学はすべてこのスタイルなのですか】
高3の数学は、週当たりこの2時間続きの数学演習が2回とそれ以外に週4回数学Cの授業があります。数学演習では今回お話ししているような基礎力の完全な理解と定着を目指した授業計画で進めており、数学Cの方は、いわゆる受験数学の難問などをがっつりやっています。

【生徒にはどのようなことを望んでいますか】
とにかく主体的にやってほしい。主体的というのは自分自身で責任感を持ってやるという事です。これは説明する側も聞く側も同じです。説明する側の視点では、責任をもって自分の力で考え、答えを導き出すことに全力を使ってほしいと考えます。聞く側の視点では、他の生徒の解法を自分の解法の一つとして取り入れるようにしてほしいと考えます。

【この授業の面白さはどんなところでしょうか】
生徒の参加姿勢でしょうか。聞く側にしてみれば、同じ生徒が発表しているから安心感を持って聞くことができていると思います。また、解説や質問する生徒の視点がおもしろいです。こちらもなるほどなとなります。ディスカッションが白熱するのも面白いですね。一通り履修が終わってそれなりに知識があるからこそできるのでしょうが、かなり高いレベルでのディスカッションは大学の数学科を思い出されます。教員の立場では、生徒にとっての解きやすい解法が何か、人気の解き方や、思っても見ない解法、解説をする生徒の理解度もわかるので、授業計画を作ることにも役立ちます。

【最近の共通テストの数学についてどのように考えていますか】
とりあえず共通テストの文章量は多いですね。リード文、問題の設定文がとても長いです。そのため、文章を読んで理解するといった処理能力が必要になってきています。センター試験の時は、極端に言えば一般的な解法に数字を入れて計算して答えを出すだけでしたが、共通テストでは数字を出すだけの問題が減り、その代わり結果の意味を説明している文を選んだり、図形の状況を表す選択肢を選んだりと、選択肢のバリエーションも増えました。本当の意味で、基礎的な内容の理解が完全でないと設問の答えにたどり着かない問題が増えたと思います。計算の正確性に加え、公式の導出過程も重要になりました。覚えている公式への当てはめ、定番解法は以前よりも使いにくくなってきている印象です。そのため、繰り返しにはなりますが、入試における基本的な内容の「完全な理解」がとても大事です。

【二次試験に関して変化はありますか】
二次試験については依然とそれほど変化はないと思いますが、確実な論述力が無いとそもそも点数はとれません。解に向かい丁寧に順序だてて説明、記述する力が必要です。

【大学入試で伸びる生徒、そうでない生徒の違いはありますか】
詰まってしまったときに記述することをあきらめてしまう、式を変形させるなどの創意工夫をしない、手が止まってしまう生徒はどうしても点数がとれません。これらは粘り強さの面での弱さがあります。中学生の時点で空欄の多い生徒は高校でも伸びないことがほとんどです。粘り強く、試行錯誤をし、少しでもペンを動かした生徒が最終的には伸びてきます。


■生徒インタビュー➀

Tさん Kさん

■松原先生の想い


■まとめ

(取材・記事 昭和女子大学現代教育研究所 研究員 本岡泰斗)