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第5回 協同的な学び合いを活用した数学の授業 中学数学

Profile

郷田 和季(ごうだ かずき) 先生

札幌日本大学中学校・高等学校 
数学科
教務部長
中学校2学年副担任 

Student

1年C組 S・kさん

1年C組 M・Nさん

(取材日:2025年5月16日)



INDEX


■導入~国内総生産を例に~


■定番のスタイルでの学び合い

この授業40分で取り組むプリント
1~8は共通課題、9~11は発展的な課題、12~13は発展的かつ独創的な面白い課題


■協同的な学びの時間

授業開始後10分以内で郷田先生は説明を終えます。前回までに学習した数直線と絶対値を端的に説明をします。

今回はグループ内で問題を説明する責任者を決めるという指示が与えられます。1から8の問題を4人が二つずつ担当します。担当の決め方は「ゴールデンウイークに遠いところに行った人の順で問題を二つずつ担当する。担当決め時間は3分」でした。これはグループ学習に入るためのアイスブレイクの要素があるゲーム感覚の担当決めと言えます。いきなり問題に入るよりも心理的安全性が高まります。

プリントが配布され、生徒たちは「どこ行った?」と聞きながらワイワイガヤガヤと笑い声も混じり、担当が決まります。
「そろそろ始めてください」の声で、生徒たちは問題に向かいます。前半の問題は基本的な内容です。多くの生徒がスムースに進みます。10分ぐらいするとだんだんと声が多くなってきます。解いた問題を担当の生徒が説明する声もあります。今回はすぐに答えが出るものが多いため、じっくりと説明する場面は少なく、答えの照らし合わせでほとんど終えています。間違った場合、「あーそうか」という言葉で理解している様子が見えました。

さて、学び合いの学習中に聞こえる言葉には特徴がありました。長々と説明するような会話文はほとんどありません。聞こえてきてきた音をそのままいくつか抽出してみました。※連続した会話ではありません。一つのグループ内で発せられた音声を抽出しました。省略せずにそのまま載せています。

「あれ?」

「どうすんだっけ」

「あーそうか」

「マイナス増える?」

「分数」

「ちがくない?そっか」

「広いってなんで」

「じゃあ2と3の間?」

「不等号多くね」

「え!」

「0の絶対値って0だよね」

「2.65じゃない?」

「あーやっぱ」

「これ無限ループ?」

「大きいこと?」

「これさー数字ありすぎて」

「ほら見て」

「私途中でやめた」

「あきらめちゃダメ」

「距離だから」

「これ全部て」

生徒たちはごく短いフレーズでコミュニケーションしています。また、独り言に近い発言も多く、思考している中で言語化されたものが発せられ、必ずしも双方向コミュニケーションをしているわけではありませんでした。返答されるものもあれば、自己完結されるものもあります。このような単語を中心とした発話が続きながら学習が進むという特徴があります。

授業開始時の説明

学び合いの前半は発話が少ない

教えあうのではなく、聞きあう関係

いつでもコミュニケーションができる

リラックスした雰囲気が作られている


■次回の授業の案内


■+α 数直線双六(すごろく)

これは、今回取材をした授業の次の回に行われた内容です。単元テストが終わった後の時間で行われた取り組みを紹介します。

単元テストの後の時間を使った遊びを通して数直線を学びます。3人一組で座り、-16~+16までが書かれたマスと1~6のトランプ(4つのマーク計24枚)が渡されます。ゴールの数字を任意で決め、そのゴールに最初に到達した生徒が勝ちです。黒のカードを引いた場合その数だけ+方向に進み、赤のカードを引いた場合は-の方向に進みます。一人2枚ずつ引くのですが、1枚引くごとにコマを動かします。ゲームを通して生徒は数直線上で数字が動く様子を体験的に学ぶことができています。
簡単なルールですが、どの生徒もゴールに向けて一喜一憂していました。強いて学ぶのではなく、楽しみの中で無意識に正、負の数字の動きを考え、学ぶことができていました。「具体的な場面で正の数と負の数を用いて表現し考察」することに着目した、単元後半の20分を有効に使った学習活動を見せていただきました。

ゴールどの数字を設定するか数学的思考を用いながら協働力と創造力が養われる

出たカードによってコマ(消しゴム)が正、負の方向へ移動する


■生徒インタビュー➀

S・Kさん

Q 数学は好きな教科ですか?
A 今は好きです。
Q 今ということは?
A 実は小学校の時はすごく嫌いでした。日大中に入学してもついていけるかすごい不安だったんですけど、郷田先生と出会って、教え方がすごく良くて、習ったことを発展させることができるっていうのもあって、数学が滅茶苦茶面白くて好きになりました。
Q どんな発展がありましたか?
A 例えば今やっているのだと、正と負の数で習ったことを双六に発展させて使ってみたりしています。
Q 小学校ではいつぐらいから算数が好きでなくなったのですか?
A 小4ぐらいからだと思います。急に難しくなってきたときに、わからなくなってきて、その時に先生からもっと勉強しろって感じしか言われなかったので、わからない不安で嫌いになりました。
Q 今ではどうですか?
A 日大の数学では、わからなくても先生は励ましてくれるし、やる気がなくならないです。あとは、グループでの学習が多いから、周りの友達にも聞けるし、それでもわからないときは他のグループに聞けるから不安がなくなりました。
Q 実際に数学の力が向上しているように感じますか?
A はい。まず、単元テストで点数がちゃんととれるようになりました。それから、実は小学校6年生の秋ごろから週に1回家庭教師にオンラインで勉強を教えてもらっていて、いまでも見てもらっているのですが、「受験前よりもわかるところが増えた、解くスピードが上がっている」と言ってもらえています。
Q 最後に何か一言お願いします。
A 最初にもいったけど、数学がめっちゃ面白くて好きになりました。これからも頑張りたいです。

■生徒インタビュー②

M・Nさん

Q 数学は好きですか?
A はい。数学の授業は大好きです。
Q 小学校の時から好きですか?
A いえ、小学校の時は算数が嫌いでした。
Q どうして嫌いだったの?
A 小学校3年生ぐらいから少しずつ分からなくなってきて、授業はどんどん進むし、おいてけぼりになってしまって、それで嫌いになりました。
Q わからないとき先生に質問はできなかった?
A できないわけじゃないんだけど、授業を止めてしまったり、周りに迷惑かかるんじゃないかと思って怖くて質問できませんでした。
Q 今はどうして好きになったの?
A 授業がわかりやすいのが一番です。グループで問題を解くので、誰一人置いてけぼりじゃないって感じがしてます。
Q 今は質問できる?
A まずはグループの人に聞けるし、グループでもわからなかったり曖昧だったら先生に聞けます。
Q 先生は授業中どんな感じですか?
A  私たちが解いているときは教室の中をうろうろしているので、すぐ声をかけやすいです。 
Q 小学校の授業とは違う?
A 小学校はほとんど、先生が説明して、グループで学ぶってことがなく、独りで解くって感じでした。今は安心感があります。こんなにやりやすくなるんだなという感じです。
Q 今はわからないことがありますか?
A 今はわからなくても全部解決できています。
Q 力がついてきている実感はありますか?
A 授業とか単元テストで解けなかったけなかった問題をスタサプでやってみたら解けてたりして、力がついているんだと実感できました。
Q この授業の楽しさはどんなところにあると思いますか?
A これまで遊びとかは楽しいってことがあったけど、学習自体が楽しいことはなかった。今まで勉強が一人で出来ないときがあったけど、今はみんながいるから楽しい。グループで勉強するって聞いて「やったー」と思った。みんなで学ぶのが楽しいと思います。
Q 将来の目標を聞かせてください。
A 私は身近な人との別れを経験していることもあって、将来医者になってたくさんの人を救いたいと思っています。
Q 郷田先生に一言!
A 郷田先生これからもよろしくお願いします!  

■郷田先生の想い


■まとめ

郷田先生が説明する場合は、生徒が学習に取り組むために必要な情報が厳選・整理して伝えられています。そして、それぞれの生徒が自分の頭で考える時間が十分に与えられます。協同的な学びを用いることで、わからないときに自由に質問ができる状況を作り出し、生徒が安心して学べる環境が作られています。また、生徒に与えている演習問題は、必ず習得してほしい「共通の学び」の部分と、ステップアップした「発展的な学び」が準備されていて、より高度な問題を望む生徒も退屈することなく、熱中して学ぶことができていました。50分という1コマの授業の中に、学習指導要領で求められる学習活動が高い水準で設計されており、生徒に安心感を与えながらも丁寧で理路整然とした説明によって成立する大変高いレベルの授業を見せていただきました。

「数学の授業が好き」この言葉にすべてが詰まっているような気がします。

(取材・記事 昭和女子大学現代教育研究所 研究員 本岡泰斗)