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第4回 世界標準読活って何?

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K・Nさん(中学3年生)

A・Sさん(中学3年生)


Index 

1. 対談「世界標準読活ってなに?」

2. 授業の様子

3. 生徒へのインタビュー

今回は、今年度から始まった「世界標準読活」とは何かを調査すべく、英語科の鬼丸先生の授業(中学校3年生)へ突撃しました。タブレットを使用して、各々が選んだ英語の動画教材を視聴しながら、ブツブツと英語をつぶやくシャドーイングが行われていました。この授業が一体どういうものなのか、何の目的で実施されているのか、その全貌を知ることが今回の取材の目的です。取材後の生徒の感想から、活用できる英語力の向上が実感されている様子が伺われます。これは1回の取材では捉えきれない奥深さを感じます!


■対談「世界標準読活ってなに?」

【この授業は何を学ぶ授業か教えてください。】
鬼丸:言語教育です。そして言語学習をしています。言語は一つだという事が根本にあります。英語も日本語もドイツ語も中国語もすべて共通しているのは相手に気持ちとか考えを伝える道具であるということです。その意味で言語は一つだと言っています。一つの言語が機能すれば、実は他の言語は短時間で手に入れることができます。言語習得には読書に勝るものはないと思っています。
(デジタル化が進み)日本語の読書は近年習慣が薄れ、難しくなってきています。英語の読書ならおさら手が届かないと今の生徒は思っています。でも、簡単なものから入っていけば、簡単に頭の中で(英語から日本語への)自動翻訳機が再生されます。これを短期間で構築するのが、世界標準読活です。耳から音声を入れることで目の動きも早くなり、紙ベースの読書も意外と読めるという事に気づくようになります。

【授業の名前の由来を教えてください。】
鬼丸:先ほどもお話ししたように日本語の読書が苦手になってきています。図書館のデータでは本の貸し出し数も減ってきています。読書は限られた人だけが楽しむようになってきているのが現状です。言語教育は読書が必須ですが、なかなかハードルが高くなりがちです。でもデジタル教材が豊富になった今では英語を耳から入れることができ、英語読書にも到達できるのです。
『長靴をはいた猫』を英語を母国語とする世界中の子供が知っています。しかし日本でこの本のストーリを話せる生徒はかなり少なくなっているのではないでしょうか。ディズニーの映画になった童話や民話は認知度が高いですが、原書であるアンデルセンやグリム童話を知らないという子供が日本では増えています。グリム童話は英語圏の幼少期に必ず読まれ、それがその人の人格形成の土台になり、おとなになってからもある一定の共通の考え方が形成されています。このような状況の中で、日本の子供が英語圏で標準とされているものを経験していないことは、将来、英語圏に出たときに土台が無いものと同じことになります。世界標準読活では、一番優しいレベルでは、英語圏の幼少期の本から入ります。英語圏では3歳ぐらいから読む本を13歳の日本人が読むのはどうなのと思う人もいるかもしれませんが、生活年齢が高い13歳では短期間で吸収できますので、世界標準にすぐ追いつくことができます。自分の英語レベルに応じたところからスタートするという事が重要です。
エール大学出版のA Litte histry of -シリーズは10歳ぐらいから英語圏の子供が読む本です。大英博物館のお土産物売り場にもこの本があり、飛ぶように売れています。この英語圏の教養書ともいえる本も教材として使います。日本語圏の子供でも十分読める書き方になっています。教養書として日本の13歳でも読めます。世界に送り出すための一般教養としての読書を推奨し、実際に読書活動を通して英語力を身につけていくのがこの授業です。こういった背景から授業名を校長がつけました(笑)

【授業中はどんな学びをするのですか。】
鬼丸:辞書を読むこともあります。メインはebooksを使います。これはアメリカの88%の学校が採用しているデジタル教科書の一種です。レベルが分かれていて幼稚園から小学校中学年ぐらいのレベルと高学年から中3ぐらいまでのレベルのものを生徒の学習段階に応じて使います。生徒は好きなトピックやストーリーを選んで自由にリスニングとシャドーイング(聞いた英語を自分の口でその場で発声する)をしながら読みます。年度の前半は動画を見て、英語の耳を作ることを心がけます。
30万語ぐらいまでは、まず耳からインプットします。そのぐらいまで英語がインプットされると横文字文化の英語が日本語に瞬時に変換できる時が来ます。頭の中に翻訳家がいるという体験ができます。英検でいえば2級ぐらいの英語力になります。読む速度も上がってきます。
ある程度英語を習得してくると、活字の本を読むことに移行していきます。高校卒業するまでにはA Litte histry of the worldの経済、社会学、自然科学、文学、美術、音楽、歴史などを読めるところまで行きたいと思っています。

【具体的に教材は何を使うのですか。】
鬼丸:デジタル教材として『SCHOLASTIC BOOKFLIX(プライマリー、動画15分程度、語数1200words程度)とTRUEFLIX(ミドルイヤー、動画25分以上、語数2700words以上)を使います。これはアメリカの教科書として使われているからトピック選択の分野がバランスよく配置されています。アジアでは中国、韓国、台湾、ベトナム、インド、マレーシア等で採用が始まっていて、国際社会での競争力を高めるための英語教育をアジア各国で必死に進めています。北海道では本校が初導入(2025年4月)となります。読む速さは変えられますので単語数や単語レベルだけでなく理解するスピードにも個々人に対応できます。紙媒体としてはOXFORD出版、ケンブリッジ出版、シードラーニング等のグレーデッドリーダー(レベル別に分かれている教材)を導入します。

【なぜこんな授業形態にしようと思ったのですか。】
鬼丸:これまで中学、高校、大学で英語の授業をやってきて、英語が喋れない日本人を痛感しました。彼らを言語難民にしたくないと思っています。学力や知力があっても、しゃべることに自信がない生徒が日本にはたくさんいます。それはリスニングからのシャドーイングをやっていないからです。「話す」を強化したら自由にしゃべれる子供が出てくるという想いで2007年から始めました。


■教材

eBOOKsは『BookFLIX』と『TRUEFLIX』から選択します。

『BookFLIX』は9つのカテゴリから選択し、各カテゴリの中にさらに10~30のお話が掲載されています。全部で155話を収録しています。

例えばPeple and Placesを選択するし、その中のペンギンの話を選択します。

左側にはペンギンの話(フィクション)が掲載され右側にはそれに関する南極大陸の話(ノンフィクション)が掲載されます。

ペンギンのストーリーを選択すると動画が再生されます。再生速度の選択、字幕の有無の選択ができます。

『TRUEFLIX』も基本的な使い方は同じですが、こちらに掲載されている話は全てノンフィクションになります。また使用する単語レベルと語数が上がるので、英語圏の生徒の小学校高学年から中学生ぐらいのレベルになっています。全222話が収録されています。

英語のレベルではLEXILEという規準で見ます。『BookFLIX』でLEXILE700程度まで掲載されています。英検準2級程度になります。『TRUEFLIX』でLEXILE1050程度まで掲載されています。英検準1級~1級程度になります。


■授業の様子

授業が始まると、生徒たちはタブレットを取り出して、各々eBOOKsにログインします。その後、イヤホンやヘッドホンを装着し、『BookFLIX』または『TRUEFLIX』から興味を持った話を選択し視聴をはじめます。

授業が始まって5分くらいすると、ブツブツとつぶやく声が聞こえ始めます。シャドーイングです。

シャドーイングの音がだんだんと大きくなります。授業開始後20分ぐらいでは三分の二ぐらいの生徒が口を動かし英語を話しています。

鬼丸先生は、机間巡視をしながら生徒の様子を観察し、「声が大きくなってきたね」「口の開きが大きくなったよ」とこれまでよりも成長したところを見つけ、生徒を褒めていました。

授業開始後30分ほどたった時に、鬼丸先生は、「そろそろ目も頭も疲れてきたと思うからちょっとリラックスしようか」「BookFLIXの方見てみようか」と声掛けをしていました。

動画は授業開始後20分ぐらいの様子です。ブツブツと英語を話す「シャドーイング」が行われています。


■生徒へのインタビュー①

Q 単刀直入に聞きます。英語は好きですか?
A 嫌いですね(笑)苦手っていうのもあって、とりあえず好きじゃないです。
Q この世界標準読活についてはどうですか?
A 楽しいってわけではないですけど、苦ではないです。(苦ではない理由は)自分のペースでできるっていうのが大きい。最初は(なんで動画を見るのか)意味が分からなかったんですけど、何回かやってると英語(を読んだり聞いた入りするの)がうまくなっている感じがしています。
Q 具体的にはどんな時に感じますか?
A 英語の授業で並べ替え問題をやったときに前よりも早く読めて、解くのが早くなったものがありました。
Q まだ4月から始まって3回目ぐらいなのにすごいですね。
A 正直びっくりしました。意外といけるのかなって、自信がつきました。あと、動画で聞いた言葉をその場ですぐ話すことができています。意味は分かってないけれど、とりあえす英語が話せているっていうのはすごいと思います。
Q 今日はどんな動画を見ましたか?
A スポーツ分野を見てその後、自然についての動画を見ました。
Q この授業で何か困ったことはありますか?
A 今日はイヤホンを忘れたので、タブレットに耳をあてて聞いていたので疲れました。忘れたとき用とかイヤホンが故障したときとか持っていない人用の貸し出しがあってもいいかなと思います(笑)

K・Nさん(中学3年生)

■生徒へのインタビュー②

Q 今日はどんな動画を見ましたか?
A 動物の動画を見ました。バリエーションがたくさんあって面白いです。
Q どのくらい英語が理解できていますか?
A 映像もついているからほとんど内容が理解できています。
Q 英単語はすべて聞き取れていますか?
A 単語一つ一つと言われたら結構わからないものもあるんですが、映像と合わさって文章全体では理解できています。以前、英語の授業で単語は文脈の中で意味や発音が変わると教えてもらったのですが、それを実感できています。
Q この授業の面白さはどんなところですか?
A  以前は英語を発音できなかったのに、この授業ではすらすら発音ができているというのが一番で、英語のイントネーションや文節を感じることができているのが面白いです。
Q 目標はありますか?
A 英語をしゃべれるようになることです。
Q 授業中鬼丸先生は何をしているの?
A 生徒の近くでシャドーイングを聞いて、イイネ!もっとこうしたらいいよとかアドバイスしてくれます。とにかく褒めてくれます。
Q 従来の英語の授業とは違うけれど、その点についてどう考えていますか?
A 最初は戸惑いもあったけれど、やってみると自分の力で全然できるし、英語が話せているっていう実感があるので楽しいです。文法とか単語を覚えるだけでは、使うことができないので、このような授業も大切だなと思います。
Q 最後に何か一言ありますか?
A 鬼丸先生!これからもいっぱい褒めてね!

A・Sさん(中学3年生)

■鬼丸先生から生徒へメッセージ

日本人は英検でリスニングの点が取れなくて落ちています。あとほんの2、3点という生徒が多いです。土曜の午後の疲れた頭で学校受験するのつらいよね。SCBTだと元気な頭で受けられるし、行事や部活に左右されにくいからおすすめですよ。
皆さんは言語力をつけて自分の未来を自分で引き寄せてほしい。なりたい自分になってください。そして魂を私に預けなさい(笑)未来は自分で作るものです。


■まとめ

鬼丸先生のお話や生徒の感想から、この授業で行っている、映像を見ながら英語の音声を聞くと同時に、発音していくという学び方は、乳幼児期の言語を取得する過程を思い出させてくれました。目にしたものと聞いたものを真似て、たどたどしい発音で声に出し、その繰り返しで少しずつ「コトバ」が洗練されていくとともに「文章」へと進化していく過程です。言語習得の本質的な部分を捉えているとともに、授業時間内に生徒が英語に触れている(見る、聞く、話す)量が圧倒的に多いことが分かります。またインプットとアウトプットを同時に行える点や、個人個人の興味関心と学ぶ速さが最適化されており、誰も取り残されない授業が成立しています。講義や演習を中心とした英語の学びと並行して、このような学びが実践されることは、本当の意味で活用できる英語力を養えると実感できるものでした。「世界標準」この言葉は決して大げさではないということが分かりました。今後、生徒たちの英語力がどのように伸びていくのか楽しみでなりません。後編をお楽しみに。

(取材・記事 昭和女子大学現代教育研究所 研究員 本岡泰斗)