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第10回 生徒が授業に参加する講義とは (高校1年地理総合)

Profile

津田 亮太(つだ りょうた) 先生

札幌日本大学中学校・高等学校
地歴公民科(地理総合・地理探究担当),高1SGLMLP担当
高校3学年担任 

札幌育ち,本校が母校で関東の私立大学卒業後,本校に勤務。
小学校時から地理を学ぶことが好きで,大学でも地理学専攻。
地理の楽しさを子どもたちに伝えたく,新卒から母校一筋19年目。


娘が作った私

Students

高校1年生 SAさんとSKさん

(取材日:2025年9月22日)



INDEX


■授業の概要

津田先生の授業スタイルはプリント+スライド投影による説明+発問&生徒参加(コール&レスポンス)型のライブ授業(?)です。

<実際の授業映像をご覧になりたい方は、札幌日本大学中学校高等学校までお問合せください>

1.授業の位置づけと学習目標

本単元が「1年を通じて最重要の肝」であると位置づけられているという話から始まりました。前回までの復習として、地球規模での上昇・下降気流の分布と降水・乾燥の対応、四大気圧帯の存在、そして地軸の傾斜に伴って季節的に気圧帯や風系の位置がずれることが確認されました。丸暗記ではなく、因果やメカニズムを筋道立てて説明できることを学習目標としていることが伝えられました。

2.恒常風(三大風系)の整理

赤道付近の貿易風、中緯度の偏西風、極域の極偏東風(授業内では「極東風」と表現)という三つの恒常風が、年間を通しておおむね一定方向に吹く基調風であることが伝えられました。これらは気圧帯の配置差から生じるものであり、海の流れである海流と強く結びついています。持続的な吹送により表層海水が駆動され、広域の循環パターンが形成されるという視点が説明されました。

3.海流(暖流・寒流)の基礎と具体例

海流は暖流と寒流に大別され、赤道側など高温域からの流れが暖流、高緯度や寒冷域からの流れが寒流になります。日本周辺では、暖流の黒潮(日本海流)や対馬海流、寒流の親潮(千島海流)・リマン寒流が代表例で、世界規模では、北大西洋海流、メキシコ湾流、ペルー海流、ベンゲラ海流、カリフォルニア海流、カナリア海流などの存在が伝えられました。太平洋の北赤道海流・南赤道海流と、それらの間を東向きに流れる赤道反流も紹介し、両側の西向きの流れに対する「返し」のような逆向き流が成り立つ概念について触れていました。

4.潮目・潮境と湧昇流、好漁場の形成

海流が交わる「潮目」では表層で水色の境が見られ、内部では「潮境」が形成されます。二水塊の衝突やせん断を契機に「湧昇流」が生じ、海底付近の栄養塩が表層に供給されます。栄養塩はプランクトンの増殖を促し、小魚、さらには大型魚へと食物連鎖が広がるため、潮目は「好漁場」になりやすいのです。また、海中の浅い高まりである「浅堆(バンク)」も、湧昇と光の到達により生産性が高まり、海藻の光合成による酸素供給や隠れ家の提供を通じて、漁獲に適した環境が整うことが伝えられました。

5.サンゴ礁分布と海流の関係

サンゴ礁は概ね海水温18℃以上の海域に分布しますが、寒流が卓越する沿岸(例:ペルー海流沿岸、アフリカ西岸のベンゲラ海流域)では水温が下がり形成が阻害されやすくなります。したがって、サンゴ礁の有無は海流分布と対応関係を持ちます。海流の理解が、漁業資源や生態系、ひいては気候区分(ケッペン)などの多方面の知識へつながることが強調されました。

6.海洋大循環と地球システム

海は表層だけでなく、温度・塩分による密度差に起因する深層循環を含む「海洋大循環」を有しています。表層と深層が結びついたグローバルなコンベヤーベルトは、千年規模で地球を一周するとされます。これは大気大循環と合わせて、地球システムを理解するうえでの基礎概念であると位置づけられました。

7.台風の発生・進路と風系

日本に接近する台風(熱帯低気圧)について、発生と典型的な進路を確認しました。台風は赤道直下ではコリオリ力が弱く渦が形成されないため発生せず、やや離れた低緯度の高海面水温域で形成されます。進路は当初、貿易風に乗って西進し、その後北上して偏西風に乗るため、東寄りに転向する経路が多くなります。これにより、日本付近への典型的な接近パターンを説明できることを示しました。併せて直近の「線状降水帯」事例にも触れ、学んだ基礎概念がニュースの理解にも資することが伝えられました。

8.学習資料と学習姿勢

配布プリントや教科書の該当ページ(気候分野)を併用し、OPPシートの課題(大気大循環など)で理解を定着させるように指示が出ました。「地理総合」は広く概要を学ぶ科目で、「地理探究」ではより深く理論的に扱うため、双方の教材を参照し、因果を自分の言葉で説明できる力を養うことが重要であることが説明されました。受験のためだけではなく、日常や社会現象の理解に結び付ける姿勢も重要であることが伝えられました。

9.まとめ:連鎖的な見取り図の獲得

授業全体を通じて、恒常風から海流、生態・資源、気候区分、さらには災害・天気へと至る連鎖的な見取り図を持つことを目標とすることが説明されました。図を読み取り、現象間の関係を丁寧に言語化することで、丸暗記に頼らない理解を深めることができる、という点で締めくくられました。

前回の授業で使われた資料

恒常風の整理

海流の基礎と具体例

潮目と潮境

バンクと湧昇流

海流とサンゴ礁の分布を説明する資料

海洋大循環の資料1

海洋大循環の資料2

OPPシートの記入例(この画像は以前の単元で記入されたもの)


138回!

1) 授業運営・学習方略(環境/準備/教材/評価・課題)
授業の段取りや学習方法、教材に関する操作を促すための問い。
00:23 なんでエアコンついてんの?
01:24 じゃあさ、全員いるよな?
19:14 141・142ページ、手元にあるな?
43:20 OPPシート、取り出せる?
44:01 やる時、教科書も確認できる?
48:04 次回ケッペンの話、事前に確認しとける?
03:22 これ定期考査に出したら書ける?(評価観点)

2) 理解確認・復習(想起/定着の確認)

理解度の確認や既習内容の想起を促す問い。
01:50 実際どうだ?大丈夫そうかい?
02:26 これ大事だって意味、分かった?
05:29 この「ずれ」が起こるって話、覚えてる?
06:12 ここまでの話、大丈夫?
27:11 ここまで分かってほしかった、OK?
36:02 ここまでの流れ、分かった?

3) 説明・表現・論述(指名発問を含む)
自分の言葉で説明・要約・論述させることをねらいにした問い。
02:49 これ、簡単に説明できる?
02:53 これだけ見て語れるかい?
02:55 この話って、どう説明する?
03:54 どう、アオ?何て論述する?
03:13 どうだこれ?自分ならどう話す?

4) 資料・地図読解(図表対応/ページ参照)
地図・図・教科書を読み取り、要点を掴ませる問い。
13:17 これはどの海?分かる?
13:38 ここは太平洋で、こっちは?
20:15 海のところ、何が描かれてる?
20:30 ここ見て「海、こんな感じで流れる」って分かる?
38:44 図を見て何に気づく?
44:32 気候の話、何ページだった?

5) 授業理解を促すために考えさせる問い
 5-1)貿易風・偏西風・極偏東風と気圧帯、海流との連関。
07:12 なんで風と海流の話を一緒にやったんだっけ?
09:55 「貿易風」って覚えてる?
10:16 ①に吹くこの風のこと、何つった?
10:23 ②あたりに吹く風は?
10:29 極から赤道側に向かって吹く風は?
20:57 ベースになってるのはどの風系だっけ?

 5-2)海流の種類・分布と力学、海洋現象のメカニズム。
11:10 海流って2種類あるよな、何だった?
11:14 暖流ってどこから流れてくると思う?
11:24 じゃあ寒流って言うと?
17:11 じゃあ、なんで赤道反流は東向きなの?
27:32 「潮目」ってどういう状態?
29:55 さっきの湧き上がるやつ、何て言った?
33:55 「浅堆(バンク)」ってどんな地形?

 5-3)海流が生物・資源・気候に与える影響
15:30 海岸砂漠って覚えてる?
27:54 こういう場所ってどうなる?(=好漁場)
28:52 なんで魚がたくさん獲れんの?
31:03 好漁場になる条件は何?
38:15 サンゴはどんな所に分布した?
39:19 なんでここだけサンゴ礁ができない?

6) 時事・生活の知識と関連付ける問い
学習内容をニュース・天気等に接続する問い。
22:02 昨日のニュース見た?
22:11 北海道で線状降水帯、初めてって聞いた?
24:05 台風、日本の近くにどうやってやってくる?
24:19 台風ってどこで発生するって前やった?
24:50 なんで赤道直下では発生しない?
25:39 なんでこういう動きになる?

このように津田先生の発問は、問いを通して学習方法や作業の指示を与えているものや、理解度の確認を行い授業の進度や内容の最適化を行っていることが分かります。そして最も数の多い問いは、授業内容についてであり、内容ごとにバランスの良い分量で発問されています。また、問いの中には時事ニュースや生活に関連する身の回りの事象に関するものもあり、学んだ知識と生活を結び付けることで活用できる知識の習得が期待できるとともに、生徒にとっては授業をわかりやすく楽しめる要素として盛り込まれていることが分かります。


■対談 ~津田型講義の神髄~

授業プリント この単元では23ページの冊子が配布されている

生徒がこの授業で書いたページ 穴埋め箇所以外にも授業で説明された内容が欄外に記入されている


■生徒インタビュー

SKさん

SAさん

■津田先生の想い

行ったことのないところでも、地図を見ればイメージできることが楽しくて、地図を作りたいと幼心で考えてたことをきっかけに、中高大と地理を深めてきました。今でももっぱら試験や受験のための地理の学習よりも本質的な地理の面白さを感じるためにはどう伝えたら良いか、何のための学習なのか考え、模索しながら授業を行なっています。


■まとめ