鬼丸 晴美(おにまる はるみ)先生
札幌日本大学中学校・高等学校 中学校1学年副担任
「やっぱりプロフィールにあれもこれも書くのは嫌いなの」

今年度からスタートした「世界標準読活」は、デジタル教材と多読・多書きを組み合わせて、“世界で通用する読み書きの力”を育てる本校オリジナルの英語プログラムです。
5月に公開した前編の記事では、これまでの授業紹介の中でも特に大きな反響をいただきました。
スタートからおよそ7カ月が経った今、生徒たちにはどのような変化が見えてきたのでしょうか。この記事では、前半で鬼丸先生へのインタビューを通して授業のねらいや手応えを、後半で生徒のノートや学力推移調査の結果から「世界標準読活」の具体的な成果をお伝えします。
【対談】
――「世界標準読活」の授業を半年間続けてみて、生徒たちにどのような変化が見えてきましたか。
鬼丸:いちばん分かりやすいのは、「英語そのものへの関心」がはっきりと高まっていることです。たとえば、自分から洋書を買って読むようになった生徒が出てきました。これはテストの点数とは別の、内側からの関心度の表れだと思っています。
授業では、BookFLIX や TRUEFLIX を使って「映像+音声+シャドーイング」を軸に、TAGAKI・ディクテーション・冬期課題テキストなどを組み合わせて進めています。だいたい、これらを各10分ずつ、合計40分ほどの組み合わせを変えながら繰り返すことが多いです。集中力は15分が限界なので、短いタームをいくつも積み重ねる形にしています。
――ただ「作業をする」のではなく、「そろばんを習得する」ように学ぶ?
鬼丸:そうですね。私は「知識はことば」だと考えています。ことばは本来、美しくあるべきで、そこから生まれる視覚的な美しさや感動も含めて「教養」だと思うんです。
ディクテーションを続けていると、まず目に見えて変わるのが「字のきれいさ」です。書くことに向き合う時間が長くなるので、だんだんと形が整い、文字の配置も整然としてきます。国語でいえば、漢字とひらがなのバランスを使いこなせることが、日本語の美しさにつながりますよね。英語も同じで、視覚的な整い方そのものが、知識の定着とつながっていると感じます。
さらに、音読を重ねることで、文章を「なんとなく読む」から「きちんと読み込める」状態に近づいている生徒も増えました。音声と文字がリンクすると、頭の中でイメージが立ち上がるスピードが明らかに違ってきます。
――数学の話もよくされますよね。「連立方程式の美しさ」と。
鬼丸:ええ。数学も、本質的には数字と記号で世界を表現することばなんです。連立方程式なんかは、その構造が実に美しい。ところが、「とにかく演算して答えを出すだけ」だと、その美しさには気づけません。
英語も同じで、「解(こたえ)」だけを求める学び方ではもったいない。大事なのは、そこに至る過程で頭の中にどんなイメージが立ち上がっているかです。私はよく、生徒に「ポップコーンは頭の中で飛んでいる?」と聞きます。言葉や図形のイメージが、ポンポン弾けるように浮かんでいるかどうか。図形を思い浮かべられるかどうかで、解き方も変わってくるでしょう?
「世界標準読活」も、英語を通してその思考のイメージ力を育てたい授業なんです。単語ひとつひとつが全部分からなくても、映像や文脈から全体の意味を組み立てる。その経験が増えてくると、教科をまたいで「読める頭」になっていきます。
――中1と中3で、教材に対する反応の違いもあったそうですね。
鬼丸:冬期課題テキストを初めて配ったとき、中1では教室から拍手が起こったんです。「これで基礎が固まるんだ」と、直感的に分かっているんでしょうね。一方で、中3になると「またこれやるの?」という反応が出てきました。
おもしろいのは、中1の子たちは答えが付いていないテキストを何度も何度も繰り返して、ぐんぐん成績を伸ばしていることです。「答えを見る」ことよりも、「解に至るプロセスを何度もたどる」ことの価値が、体験として分かり始めている。
知識は「分かった」で終わるものではなく、「分かったことを自分で使いこなせる」段階まで到達して、はじめて本当の力になります。そのためには、さまざまな英語を聞き取り、書き取り、音読し、ディクテーションを重ねるという、地道な反復練習が欠かせません。ときには修行のように感じられる瞬間もありますが、一つひとつの課題を乗り越えるたびに、「できた」という小さな成功体験が積み上がり、自信へと変わっていきます。半年間取り組んでみて、そうした訓練を前向きに受け止められる生徒が確実に増えてきたと感じています。
――授業中の雰囲気や、教室文化の変化はありますか。
鬼丸:ありますね。「読む」という行為には、時間を読む・情勢を読む・人の話を読む・空気を読む・文字を読むなど、いろいろな「読む」があります。知識には経験値が必要で、その一つひとつが「読む力」とつながっていきます。
例えば、遅刻の話をすると、「一本早い電車にしよう」と自分で「計算」できるようになるのも、ひとつの読み取りです。そろばんが単なる計算ではなく、経験の蓄積から先を読む力につながるのと同じです。
授業でも、忘れ物を何度も注意していると、「先生の話を聞く時間が減ってしまう」「その時間がもったいない」と発言する生徒が出てきます。そこから、「じゃあどうしたらいい?」と問いかけると、「みんなが授業前にきちんと用意しておく」「生徒同士で声を掛け合う」という発想が出てくる。結果として、生徒同士の声掛けが自然に生まれ、教場が整然としていくんです。
中1の教室では特に、そういった「場を整える力」が育ってきているのを感じます。世界標準と言うと難しく聞こえますが、私にとっては「世界に通じる人になること」です。そのためには、読書活動だけでなく、活動をより良くするための「教場そのもの」をつくることが不可欠なんです。
――シャドーイングも、50分ぶっ通しではなく工夫しているとか。
鬼丸:はい。50分間ずっとシャドーイングをしたら、さすがに生徒たちは疲れてしまって、他教科に響きます(笑)。ですから、シャドーイングとディクテーション、TAGAKIなどを組み合わせつつ、途中で「昨日何をした?」と英語で話しかけるような時間も入れています。
日常の中で、ふっと頭を英語モードに切り替える。「メロンパン」を聞いたら「あ、melon buns だな」と自然に変換できるようになる。映像と単語が頭の中できちんとリンクしているかを確かめる瞬間でもあります。
――TAGAKIをやっている生徒のノートのコメントも印象的でした。
鬼丸:TAGAKIでは、単に英文を書き写すだけでなく、自分の頭に入っている知識や感想をたくさんアウトプットする練習もさせています。書くという行為は、アウトプットの最たるものですし、「恥を書く」のも含めて経験値になります。
生徒がノートにたくさんコメントを書いてきたとき、それを読んでこちらがどう反応するかも重要です。返したコメントをまた読み取れるか。その双方向の読み書きの往復が、「読活」として一番おもしろいところだと思います。実際、しっかり取り組んでいる生徒ほど、反応も豊かで、表現もどんどん変化してきています。
――最後に、デジタル環境との関係についてはどう見ていますか。
鬼丸:よく言われる「デジタル脳クライシス」、つまりデジタル機器の使い過ぎで読み書きが弱くなる問題は、私も危機感を持っています。ただ、だからといってデジタルを遠ざけるのではなく、むしろ意図的に「読む・聞く・書く」を鍛える場としてデジタル教材を使うのが「世界標準読活」です。
半年間やってみて、BookFLIX のようなデジタル教材と、TAGAKI・音読・ディクテーションを組み合わせることで、英語への内発的な関心、ことばと文字への美意識、教科をまたいだ「読む頭」、学びの場である教室を整える力が、静かに、しかし確実に育ってきている手応えがあります。
――ありがとうございました。
【世界標準読活に関係するテキストや生徒の変容】
①TAGAKI(多書き)
TAGAKI(多書き)は授業でも使いますが、基本的には希望者のみが購入することになります。家庭学習として取り組み、鬼丸先生に提出すると一人ひとり先生が見て、書き方のアドバイスやコメントを書いて戻してくれます。現在中学生では116冊購入しています。

②リトル・ヒストリーシリーズ
イェール大学出版局 リトル・ヒストリーはWorld、Philosophy、Psychology、Art、Music、Religion、Literature、The Earth、Language、Archaeology、Science、Economics、Mathematics、Poetry、United Statedの全15巻のオールイングリッシュの本になります。こちらについても希望者のみ購入で、授業で使うのではなく、授業外の時間に読んだり、書き写したりといった使い方をします。現在中学生では34冊購入しています。


③生徒のノート
後期(10月)から始めた中学1年生の英語学習ノートの画像です。毎日、生徒自身が設定した英語の課題をノートに書いています。始めたころはTAGAKIテキストの課題をやや受動的に書いていましたが、自らの英語表現力を高めたいことや、筆記体で早く美しく書きたいという想いから、最近はリトル・ヒストリーシリーズを書き写しています。このような自学形式の英語学習に取り組んでいる生徒が、学年の中に数十人いて、それらの生徒が本物の英語力を驚異的な速さで高めていっています。


④学力推移調査
中学1年生の学力推移調査では、4月から9月にかけて英語の平均偏差値が上昇し、国語・数学の平均偏差値よりも約6.0ポイント高い結果となりました。学年全体として、英語力の底上げが進んでいることが分かります。
とくにTAGAKIやリトル・ヒストリーに自主的に挑戦している生徒の多くは、偏差値で10ポイント以上の伸びを記録しており、読活に主体的に取り組んでいる生徒ほど成績の伸びが大きい傾向が見られました。
もっとも、これらの教材に挑戦しているのは、もともと英語への関心や学習意欲の高い生徒が多いという側面もあります。世界標準読活そのものの効果との関係については、今後も丁寧にデータを蓄積しながら検証を続ける必要があります。
※スコアの詳細についても教えていただきましたが、公開可能な範囲で記載している都合、一部曖昧な表現になっていることをご了承ください。

(中学1年生学年通信より抜粋)成績が向上した生徒の英語学習はそれぞれの目標や課題が設定されており、鬼丸先生の世界標準読活の影響を受けている生徒が目立つ。
■まとめ
取材を通して強く感じたのは、「この生徒たちの英語力は、ここからさらに伸びていくだろう」という期待でした。英語は言語ですから、本来は読む・書く・聞く・話すを切り離さず、使いながら育てていくものです。実際の授業では、どうしてもリーディング、ライティング…と分割して計画しがちですが、鬼丸先生の世界標準読活は、それらを包括的に設計し、デジタル教材と多読・多書きを組み合わせながら、英語そのものを楽しむ学びの場として機能していました。
自主的にノートやTAGAKIに取り組む生徒の姿からは、「英語を学ぶこと」そのものへの喜びが伝わってきます。さまざまな仕掛けを通じて内発的動機付けを引き出し、生徒の内側から「もっと知りたい」「もっと書いてみたい」というエネルギーを生み出している点は、札幌日本大学中学校高等学校が掲げる「未来を創る力を伸ばす教育」の具体的な一場面と言えるでしょう。
家庭で、授業で扱った映像や本の内容について「どんな場面が印象に残った?」「何がいちばんおもしろかった?」と問いかけてみるといいかもしれません。内容を完璧に理解しているかどうかより、「自分のことばで世界を語ってみる」経験そのものが、生徒の学びをそっと後押ししてくれます。
鬼丸先生の前任校での実践については、以前の別の記事でも紹介されていましたが、今回の取材を通じて、そこで語られていた理念が、本校での具体的な教育活動として確かに形になっていることを改めて実感しました。(記事ALLABOUTNEWS https://news.allabout.co.jp/articles/o/72915/)
(取材・記事 昭和女子大学現代教育研究所 研究員 本岡泰斗)